
これほど透明感にあふれたピアノの響きは、珍しいのではないか。デリカシィに満ちた指使いだけではなく、おそらくはペダルを離すテクニックで音の濁りを防いでいるのだと思う。唯一無二の世界を作り上げている。選曲も渋くて、ゆったり身を浸すことができる。(1988年)
これで「111 黄」のボックスセットは、終了。よく知られた録音ばかりではなく、古楽からスティーヴ・ライヒまで幅広くカバーしていたと思う。長くクラシック音楽を聴いて来た人でも、全部持っている人はいなかっただろう。総じて録音が良く、とくにアナログ録音の成熟期だった1960〜70年代の音は滑らかでコクがあった。ドイツ・グラモフォンの老舗の風格を、あらためて感じた。