
最後のCDはアンコール・ピース集なのか、短い室内楽の曲が集められている。いちばん親しまれているは、モーツァルトと同時代に生きた盲目の女性、マリア・フォン・パラディスの「シチリアーノ」だろう。他にもブリテンの「チェロ・ソナタ」も収録されていて、鋭い切れ味を見せつける演奏だと思う。このCDにはどこにもバレンボイムが登場しておらず、心なしかしっとりした演奏になっている。バレンボイムは「ユダヤ教に改宗までさせておいて、病気になったら見捨てるダメ夫」みたいに言われるけど、二人の間のことはだれにもわからない。天衣無縫に弾くデュプレはバレンボイムあればこそ、だったのかもしれない。

ところでこのボックスセットは、ご覧のように横に引き出すと、取り出しやすいようにCDとリーフレットが収められている。箱の造りとしてはかなり工夫されていて良いとおもうのだけれど、妻がフタを上から被せたら、どうやって引っ張っても抜けなくなってしまい、フタの一辺にカッターで切れ込みを入れたら抜くことができた。「こんなにキツいのに、気がつかなかったの?」「だって、すっぽり入ったもん」「………。」くれぐれも、フタを上から被せないように用心してください。