
特集は「利きピアノ」。オヤジが好みそうな「利き酒」と、オヤジしか言いそうもない「聴き」との洒落が、なんともオヤジ臭い。音楽ソースに強い音楽之友社ならではの企画で、ピアノはたいがいの人が聴く楽器なので、目のつけどころは秀逸だ。とくに読み応えがあったのは、峰尾昌男さんの「ピアノを知る」、井上千岳さんの「ピアノ録音の実態」、そして飯田有紗さんがクラシック音楽のピアノを紹介した記事だ。飯田さんはピアニストの本質まで迫った紹介をしていて、演奏経験のある人はやはり違うと思わせる。片やジャズの方に目を向けると、さらっとなでてお終いの印象をもってしまう。せめてピアノ・ソロアルバムの名盤と録音について、まとめて欲しかった。
「木住野佳子が聴く ピアノが踊るスピーカー」は、ミドルクラスのトールボーイ機を5機種、聴き比べている。現実的なお値段の機種なのは好感が持てるし、同クラスの各メーカーの聴き比べということで興味をもつ人は多いだろう。ただタマ数は少ないとはいえ、テクニクス、ヤマハ、クリプトンと日本ブランドの製品も登場させて欲しいものだ。スピーカーの評価となると、木住野さんのような演奏家の言葉はちょっと物足りない。ふだんからこのクラスのスピーカーで聴いているリスナーを何人か募って、座談会形式でやる方が面白いかもしれない。
田中伊佐資さんの「音の見える部屋」に登場した、長野県の清水さん。世の中には、どエライ人がいるもんだ。元蒸気機関車の運転手が築いた5ウェイのホーンシステムは、部屋にぎりぎりで入った巨大サイズ。もともとは蒸気機関車の録音を聴きたいというこで始めたらしいが、仲間に頼まれたのもあって「60個くらいは」スピーカーを作りあげたそうだ。ホーンは理論的に設計されたものではなくて、たとえばしなる合板を手に入れたら何となくで作ってしまう。アンプは仲間に管球式を組んでもらい、音楽も聴きこむようになっている。この部屋の音は、ぜひ聴いてみたい。
ONTOMOショップの関係もあって、8〜10cmのフルレンジ、付録のデジタルアンプの改造対決と、こういうチマチマとした遊びは面白く読める。ただ8cmフルレンジと、100万円のカートリッジとどうつながるのか? 高額商品は、隅の方に小さく載せてもらえばシラけなくて良いのだけれど。ゼロの数がひとつ違うんじゃないかと思うような製品を見ると、ゲンナリする。これはぼくの周りのオヤジの総意だ。
「STEREO試聴室」には、アキュフェーズE-4000が登場した。E-480の税別55万円から、63万円と8万円のアップは幅が大きい。「バージョンアップの効果が明らかである」という評価が並んでいるのは、それだけメーカーが信頼されているということだと思う。オーディオに限らず、「人は思いこんだ通りに聴こえる」のだ。前モデルとの比較をするなら、ぜひブラインドでやってもらいたいと思ったりする。
角田郁雄さんの「イタリアン・サウンドの情景」では、CHARIOのスピーカーが2機種、紹介されている。ソナス・ファベールよりも創業が古いメーカーだけど、代理店があったりなかったりで、日本ではあまり流通してこなかったようだ。ブックシェルフの方は天板を廃したスタンド、フロアタイプは脚部に向いたウーファーと、趣向が凝らされている。デザインも「うちに置いたら、浮くんじゃないかな」と悩まずに済む、無難なものだ。
「今月の特選盤」では、石田善之さんが吉松隆の「カムイチカプ交響曲」を紹介していた。これは、買わないと。1枚でも新しい出会いがあると、モトをとった気になる。