2022年12月02日

ヘルベルト・ブロムシュテット

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ヘルベルト・ブロムシュテット(1927〜)はNHK交響楽団では桂冠指揮者を務めており、現役最高齢の指揮者。何と御年95歳なのである。6歳からピアノやヴァイオリンのレッスンを受け始め、バーンスタインなどに師事をして26歳で指揮者としてデビューし、70年間も指揮者として名だたるオーケストラを率いてきたのだから、もう驚くしかない人なのだ。

そのブロムシュテットが、N響でマーラーの交響曲第9番を振っている番組を観た。死を恐れていたマーラーはベートーヴェンが第9を書いた後に亡くなったのを苦に病んで、9番目の交響曲を「大地の歌」と名づけた。それでも生きていたのに安堵したのか第9番を作り、第10番は未完のまま死を迎えた。「第9」が最後の交響曲になったということでは、まったくベートーヴェンと同じ道をたどってしまったと言える。

演奏の前のインタビューでブロムシュテットは歌いながら曲を解説していたが、それは老いを感じさせるものではなく、音楽に打ち込んでいる青年の表情であり、目つきであった。いばらの道を究めた人の中には、稚気を感じさせる人がいるものだけれど、ブロムシュテットもまさにそういう人なのだろう。演奏も引き締まって透明な響きを引き出しており、最後の消えゆく響きは美そのものを感じさせた。コンサートマスターの篠崎さんに手を引かれて、何度もステージで拍手を浴びていたが、聴衆は椅子から立ち上がれないくらいの感動を味わったのではないだろうか。日本のサッカーはワールドカップでスペインを下して決勝トーナメントに進んだけれども、それ以上に勇気をいただいたような気がした。
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2022年10月30日

冬の旅

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中野和子(alto)と佐々木洋子(p)による、「冬の旅」を聴きに行った。会場は釜石市民文化ホールTETTOのホールBで、建物は新しくて音響的にもよく考えられたホールだと思った。床はリノニウムのようだけど、響き過ぎる感じはない。聴衆は年配の方が多いようだったが、ほぼ満員の入りだった。いちおう前日に、フィッシャー・ディースカウのバリトンによる歌唱を予習していったが、有名な「菩提樹」以外は口ずさめるような曲ではない。初演はシューベルト自身による弾き語りとも伝えられているが、ピアノを弾きながらこんなに難しい曲を歌えるものなのか? と思ってしまう。

ご存知の通り「冬の旅」は恋人に振られた男があてどなくさまよう歌詞で、全24曲で1時間半近くの演奏時間を必要とする。中野さんの歌唱は迫真で表現にも幅があり、圧倒されるものがあった。佐々木さんのピアノも音色がきれいで、好サポートに感じた。クラシックでは当たり前のことなんだろうけど、マイクなしのナマで聴くことができて、とても豊かな時間を過ごすことができた。
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2022年08月28日

テレビでオペラを観る プッチーニ 「トゥーランドット」

だいぶ前の話になるけど、英国はロイヤル・オペラのブルーレイ・ディスクをセットで購入した。わが家のテレビは50インチなので、DVDとブルーレイの違いはほとんど分からないと思う。今日は日曜日なのにまた雨が降ってしまい、出かける気にもならず、「トゥーランドット」を観てしまった。

「観てしまった」のは、あらすじがとんでもなくリアリティに欠けるのに、音楽と演出が素晴らしいからだ。「トゥーランドット」がお好きな方には申し訳ないけど、アホ丸出しの王子カラフになぜ賢い召使いのリウが惚れるのか、そのカラフもまたどうして頭のオカシイお姫さまのトゥーランドットに執着するのか、リウが死んだのになぜカラフとトゥーランドットが平気で結ばれるのか、いろいろと気になってしまうと、何だかもうシラけてしまうのだ。

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(左がリウ、右がカラン)

キャストでは日本の中村恵理さんがリウを見事に演じて、カーテンコールでも盛大な拍手を受けていた。興ざめだったのがカラフ役の人で、歌は良いとしてもメタボでやたらに「強そう」なのだ。横暴な役人に捕えられる場面でも、ピンポンパンの三人組なんかひと蹴りでやっつけそうな勢いなんである。トゥーランドット役の人も歌はすごいとしか言いようがないけど、表情に鬼気迫るものがあるというか、もう怖すぎるのだ。ああだこうだと文句を言いながらもつい観ちゃうのは、結局は「好き」ということになるんだろうか。
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2022年07月29日

ビル・フリゼール・トリオ



日本風に言えば古希を迎えたビル・フリゼール(g)が、2021年7月3日に行ったライヴがYouTubeにアップされていた。ライヴハウスやコンサートではなくて、公的な団体が企画したようだ。木造の納屋に大きな抽象画がかかっていて、トーマス・モーガン(b)、ルディ・ロイストン(ds)とのトリオが淡々と、おしゃべりを楽しむように演奏を進める。見た感じではフリゼールの思いつきに二人がついて行ってるようで、たやすい芸当ではない。同時代のジャズ・ギタリストはパット・メセニーを追いかけるのに手一杯で、カントリーの匂いがするフリゼールは敬遠していた。でも、やはりこの人は凄い。
posted by あおのり at 16:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽と音楽家

2022年02月09日

ギルバート・キャプラン

こんな人がいたとは、知らなかった。ネットで見かけた情報が土台になっているので、怪しいところもあると思うけど、ご容赦ください。

ギルバート・キャプラン(1941〜2016)は、マーラーの交響曲第2番「復活」「だけ」の指揮者だった。1965年に友人に連れられてストコフスキーが指揮した演奏(コンサートとも、リハーサルとも書かれている)を聴いて「稲妻に打たれ」て以来、、この曲をわが物として指揮をすることに人生を賭けたらしい。ピアノの先生についてジュリアードを目指しても、もう遅い……と思ったかどうかは分からないけど、型破りな最短距離をひた走ったことは事実だ。

仕事は投資家向けの専門紙を創業して編集長としても活躍し、会社を大きくした。それを売り飛ばして、マラ2大作戦の資金にしたらしい。指揮法のレッスンを受けて、ゲオルグ・ショルティにも師事をした。そしてついにオーケストラと歌手を雇って、40代でエヴリィ・フィッシャー・ホールでコンサートをやってのけた。このときにチケットを一般販売することはなく、いかなる批評もしないことを条件にしたらしい。でも二人の批評家が好意的なコメントを出したために、大評判になった。最初で最後のはずだったのが、結局はさまざまなオーケストラからのオファーを受けて、マラ2を振ることになった。ロンドン交響楽団と吹き込んだアルバムは17万5千枚も売れただけでなく、高い評価を得たそうだ。来日して、新日本フィルで振ったこともあった。

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キャプランは演奏だけでなく、譜面のブラッシュアップにも余念がなかった。指揮をすると総譜とパート譜が食い違っていたり、さまざまな指示の間違いがあったらしい。マーラーは猛烈に忙しい人だったのでミスも多かっただろうし、本人も自覚して死の前年まで楽譜に手を入れていた。キャプランはその自筆譜面を入手して、音楽学者の協力を得て500箇所に渡って修正をほどこした。校訂版は国際マーラー協会も承認し、クリティカル・エディションとして出版された。校訂に際して、問い合わせを受けたウィーン・フィルの首席クラリネット奏者で副団長だった、ペーター・シュミードルがいたく感動したらしい。ついにウィーン・フィルからオファーを受けて録音を果たし、ドイツ・グラモフォンから発売された。

何とも爽やかな生き方で、素晴らしいと思う。快男児だ。第2番のみ、というのも良い。マーラーを聴きこんだ人なら、晩年の作品の方がもっとやりがいがあっただろうに……と思うかもしれない。想像するに他の曲に手を出さなかったのは、職業音楽家へのリスペクトから、あるいはアマチュアとしての矜持を保ちたかったから、ではないだろうか。
posted by あおのり at 19:55| Comment(4) | TrackBack(0) | 音楽と音楽家