
ヘルベルト・ブロムシュテット(1927〜)はNHK交響楽団では桂冠指揮者を務めており、現役最高齢の指揮者。何と御年95歳なのである。6歳からピアノやヴァイオリンのレッスンを受け始め、バーンスタインなどに師事をして26歳で指揮者としてデビューし、70年間も指揮者として名だたるオーケストラを率いてきたのだから、もう驚くしかない人なのだ。
そのブロムシュテットが、N響でマーラーの交響曲第9番を振っている番組を観た。死を恐れていたマーラーはベートーヴェンが第9を書いた後に亡くなったのを苦に病んで、9番目の交響曲を「大地の歌」と名づけた。それでも生きていたのに安堵したのか第9番を作り、第10番は未完のまま死を迎えた。「第9」が最後の交響曲になったということでは、まったくベートーヴェンと同じ道をたどってしまったと言える。
演奏の前のインタビューでブロムシュテットは歌いながら曲を解説していたが、それは老いを感じさせるものではなく、音楽に打ち込んでいる青年の表情であり、目つきであった。いばらの道を究めた人の中には、稚気を感じさせる人がいるものだけれど、ブロムシュテットもまさにそういう人なのだろう。演奏も引き締まって透明な響きを引き出しており、最後の消えゆく響きは美そのものを感じさせた。コンサートマスターの篠崎さんに手を引かれて、何度もステージで拍手を浴びていたが、聴衆は椅子から立ち上がれないくらいの感動を味わったのではないだろうか。日本のサッカーはワールドカップでスペインを下して決勝トーナメントに進んだけれども、それ以上に勇気をいただいたような気がした。