
以前に「シーメンスの鉄仮面」としてアップしたけれど、また聴かせていただいた。ディスクはアート・ペッパーの「ミーツ・ザ・リズムセクション」、ビル・エヴァンスの「ワルツ・フォー・デビイ」、ベーム指揮のモーツァルト「レクイエム」、ディエゴ・バーバーの「カリマ」(以上、CD)、マイルスの「ラウンド・ミッドナイト」(LP)と、ジャズを中心に織り交ぜて聴いてみた。
前回と大きく印象が変わったわけではないけど、並外れた開放感は相変わらずで、「ホコリっぽい音」と感じるほどの詰まった感じ、古色蒼然とした感じはしなかった。たとえばポール・チェンバースのベースが小気味良くポンポン跳ねる感じ、そしてその音の速さは、高能率ユニットと後面開放型エンクロージャーの組み合わせでないと、決して得られないのではないだろうか。確かに再生周波数レンジはう狭いのだけれど、レクイエムを聴いても独唱がナマナマしくて、その説得力に打ちのめされてしまう。「ラウンド・ミッドナイト」での、マイルスのトランペットがスーッと出て来るのは快感だ。2008年の録音、「カリマ」のガットギターの繊細さもしっかり表現している。「ワルツ・フォー・デビイ」でシンバルのシズルが良く出ていないからと言って、トゥイーターを付けようとするのは、懐石料理に握りを足してもらうようなものなのだろう。
このスピーカーを置くにはまずもって広い部屋が必要になるし、しかも後ろに空間を確保しないと難しいらしい。「鉄仮面」もユニット一発の箱はたまに見かけるけど、輸入元が作った二発の箱となるときわめて入手困難だと思う。

こちらは伊藤喜多男氏が製作された、EL34プッシュプルのステレオパワーアンプ、CRESCENT 2500-D。真空管はシーメンス、トランスはラックスで、これもずいぶんなお宝らしい。試聴したい方、購入ご希望の方は、お店に問い合わせてみて欲しい。(岩手県滝沢市 オーディオベースマン 019-687-3533 水・木曜日休み)
それに、先立ち、ベースマンにて、シマノフスキ:ピアノ作品集クリスチャン・ツィメルマン (ツィマーマン?)のCDをこのスピーカー(SP)で聴きました。グランドピアノの帯域の広さと陰影感のある音色の再現は無理でしたが、音を拡大する音場表現は上手いと感じました。帯域が狭いのに音場が拡大するのは矛盾していますが…。
さて、実演。シーメンスのSPは、「ピアノの音質は落ちるが、音が詰まらないし、量は出る」と思いつつ、小山さんの演奏を聴きました。音の伸びやかさと量の表現は、あらえびす記念館のウエストミンスター・ロイヤルより上と実感。ピアノ、オーケストラの再生には、最適。
難点は‘大きさ‘のみ。
小山実稚恵さん。音の太い、体幹のしっかりした演奏。作曲家の楽想を的確に捉えている。岩手県民としては、小山さんが盛岡で過ごされた時期があって良かった。今日は、いいシューベルトを聴いたと思いつつ帰宅。
シマノフスキって「こんなに難しい曲を、だれが弾くんだろう」とか言いながら、極めつけに難しい曲を書いていたらしいですね。さてこのスピーカーは、いわゆるハイファイ再生とは真逆にありながら、他に代えがたい魅力がありますね。細かいことを考えずに音楽に浸るしかないというか、細かいことなど考えられなくなるというか……。