
なんと! 特集は「ECMとオーディオ」。荒涼としたモノクロームの表紙は、ステレオタイプだとは思うけれども、ECMのイメージではある。下のヘーゲルのアンプは、ECMの看板エンジニアだった故ヤン・エリク・コングスハウク氏がリファレンスとして言及していたそうだ。ヘーゲルの音は聴いたことがないけれど、簡素なデザインと凝った電源回路でECMとの類似性を感じさせる。エソテリックの広告記事で山之内さんが書いているアヴァンギャルドのホーン・スピーカーはあんまりECMのイメージではない……けれども、実際にどう鳴るのか聴いてみたいとは思う。メーカーの方でも特集にリンクするのは、気が利いている。
特集記事は力を入れて編集、取材したのがうかがわれるし、読み応えのある記事が多かった。ジャズ評論家の岡崎さんや、日本の代理店を務めたトリオの稲岡さんは定番的な人選かもしれないけれど期待に応えているし、縁のあったミュージシャンやエンジニアのインタビューも興味深い。矢澤孝樹氏の「鬼才マンフレート・アイヒャーの実像」は簡潔な文章でECMの本質に迫っていて、感銘を受けた。また「レコード芸術」の「レコード・アカデミー賞」を受賞した「ブラームス ピアノ協奏曲第1番&第2番 / アンドラーシュ・シフ」について、同誌の編集部員にインタビューしているのは音楽之友社ならではの強みを活かしている。
「欧州製スピーカーで聴くECMの世界」はミッドレンジのブックシェルフ・タイプの機種に集中していて、機種の選び方がドンピシャだと思った。唯一残念に感じたのは、「MY ECM! 愛聴者11人の私的名盤」の執筆者の人選だ。お店で流す側(元、も含む)のお三方は、音や音楽ついてよりも自分を語っていて、もうホントにしょうもないのだ。何を言いたいのかが分からなくて、人柄の方が分かってしまうというのは、モノ書きとしてはいただけないと思う。
福田さんの「オーディオの新常識」では、「10万円以下の低価格フォノイコライザーアンプ」の聴き比べで、こういうことはどんどんやって欲しい。ぼくの
合研ラボのフォノイコは3万円以下だけど、これも聴いて欲しかった。かたや「注目製品ファイル」にはEMTのフォノイコライザー、「128」も取り上げられている。税別140万円で、スイスメイドのアルミくり抜き筐体にサブミニチュア管と特注のルンダール製トランスを搭載しているそうだ。ロレックスの貴金属時計のようなもので、まず筐体にお金がかかっている。そして中身は大昔の必要悪だったトランスや、趣味性の高い真空管を積んでいる。こうなると実用品ではなくて嗜好品であって、それを実用品メーカーのオーディオテクニカにいた潮さんが大推薦しているのは、本気でそう思っているのか? ちょっと聞いてみたくなった。
トライオードの管球式アンプ、「EVOLUTION」はKT88のプッシュプルのプリメインアンプで、税抜き48万円。電子ヴォリュームを採用しているのが、革命的なんだろう。どうにも残念だと思うのが、パネルの表示だ。ボコボコの文字?が赤く光っているけど、これでは視認性が悪いだけでなく、とてつもなく安っぽく見えてしまう。でも表紙にも載っているヘーゲルはきちんとフォント(書体はヘルベチカ?)を表示していて、ちっとも安っぽく見えない。たとえ何万円か高くなったとしても、キレイな方が売れると思う。
「ステレオ時代」を発行している牧野茂雄さんが、「音楽人巡礼」に登場している。この人の部屋は、いや家がそうなのかもしれないけど、魔窟だ。音楽とか音とかじゃなくて、キカイが好きな人だということが分かった。自動車評論家だし。ぼくは骨董品に興味はないけど、「お宝鑑定団」に出て来る一風変わった人たちを見のが好きで、録画して見ている。それと同じような感覚かな。今月号の「音の見える部屋」は飛び切りゴージャスな装置だけど、主様はあまりにもマトモで素敵で優しそうな人で「良いなあ」で終わってしまうのであった。