MM型とはムーヴィング・マグネットの略で、ダンパーで支えられているカンチレバーの針の反対側には、磁石がついている。コイルの巻数を稼げるので高出力で針交換もできるし、大量生産に向いているので安い。特許を回避するためにIM型、オーディオテクニカのVM型など、様々な亜種変型が出たけど、ここではすべて「MM型」で扱います。
「そりゃもう、シュアーのタイプスリーでしょ」で終わってしまうのだ。ベイシーの菅原さんが深く愛しているために神格化されて、ネットオークションでは高値で取引されている。でもぼくはヘソマガリなので、TypeIVを持っている。若い頃に「リファレンス」として一世を風靡した、でも高嶺の花で使えなかったTypeIVをオトナ買いしたのだ。それにヘソマガリの方が、菅原さんのスピリットを受け継ぐことになるでしょ。
もちろんTypeIVでも古いジャズは聴けるけど、お行儀が良くなってしまう。MM型で好きなのは軽針圧のシュアーよりも、中電やオーディオテクニカの丸針の安いやつ。針圧を2グラム、3グラムと遠慮なくかける仕様の製品が良いと思う。
丸針は高域が伸びないし、ガシャガシャとした付帯音も感じるけど、音そのものは素直で中域の美味しいところを強調してくれる。溝の底まで届かないので盤のチリに強いし、減ってきても盤を痛めにくい。交換針も安いから、ケチらずに替えることができる。レコードはわずかな例外をのぞいて中古でしか買えないから、大切にした方が良い。
MM型モノラルのカートリッジもあるけど、現行製品はステレオ針で、電気回路のみがモノラルのなんちゃって版だ。そうしないと再発するときにステレオカッティングされたモノラル盤をダメにしてしまうので、しょうがないのだ。モノラル盤しか聴かない人には良いし、50年代の左右泣き別れステレオはモノラルで聴いた方が落ち着く人もいるだろう。
でもレコードのステレオ、モノラルに合わせてカートリッジを替えるのは面倒だ。グラドの安い製品は、同じ重量と針圧でステレオとモノラルが出ていて、シェルやリードも同じくすれば調整不要ですげ替えることができる。これは良いと思ってやってみたけど、そのうちそれすら面倒になった。それにモノラル用に替えてノイズが左右同一になるのは良いにしても、音は劇的に変わらないのだ。たまたまアンプにステレオ/モノラル切り替えスイッチがついていたので、それで済ませるようになってしまった。